神様のいたずら

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 お礼を言わなきゃ。この人のおかげで、小さな命が救われたのだから。  一度帰りかけた足を戻して、彼の前に立つ。通学鞄へ向けている視線がこっちを向いたら、声を出すの。 「その制服って、聖女(せいじょ)だろ?」  顔が上がると同時に放たれた言葉。準備していた台詞は飲み込まれて、また声が出なくなる。  どうしよう。ただ学校を聞かれただけなのに、不安の波が押し寄せる。  いつだって、聖薇女学院という名だけで偏見を持たれてきた。近所の人からは、「蛍ちゃんは優秀で親孝行な子ね」と言われ、すれ違ったおじさんには、つま先から頭までじろりと見定められる。  優れていることなんてなくても、特別扱いされるのが嫌だった。 「よく行ってるよな、あんな息苦しそうなとこ。規則とか厳しそうだし、学校サボりたくなんない?」  表向きばかり見られて、誰にも理解してもらえないと思っていたのに。私じゃなくて、学校を否定されたのは初めて。  それが嬉しくて、胸の奥から感情があふれ出てくる。 「……楽しくない」  思わずこぼれた声に、自分自身が驚いている。知らない男の子を相手に、よく話せたなって。  ぐっと足のつま先に力を入れると、合っている切長の目がふっと緩んだ。
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