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「ネコ太」
「……かわいい」
「うそだろ……ネコ太だぞ? どう聞いてもセンスねぇだろ」
あまりに驚いた声と表情だったから、思わず吹き出してしまう。
「ちょっとは思ったけど、否定するのは失礼かなって」
くすくすが止まらないでいると、宮凪くんが隣でネコ太の画像をスクロールしていく。仰向けに寝転んだり、おいしそうなご飯をもらっている。
幸せそうな姿に、こっちまで胸が温かくなる。
「運命って分かんないよな。捨てられてるのがここじゃなかったら、俺たちが見つけてなかったら、この人が引き取ってくれなかったら。ネコ太は、今生きてないかもしんねぇじゃん」
動きの止まった指先を、じっと見た。
たしかに、宮凪くんの言う通り。全ての小さな奇跡が重なったから、ネコ太は今を生きている。
なにげなく過ごしている毎日でも、少しの勇気で変えられるものがあるんだ。
「明日、頑張って声かけてみたら?」
「えっ」
「気になるクラスメイトに。蛍ならできるよ。もう俺と普通に話せてるし」
「……そんなこと」
言いかけた言葉をごくんと飲み込む。
──春原さんってさ、声小さすぎて何言ってるか分かんないよね。
──暗いし地味だし、あれじゃあ友達出来なくても仕方ないよな。
話すことに臆病だった私が、それなりの声量を出せていた。少しずつだけど、宮凪くんとなら友達になれる気がする。
薄暗くなった景色を背景にして、小さく手を振った。ぬかるんだ地面を踏みながら、宮凪くんが笑うと八重歯がのぞく。そんな何気ない表情が可愛らしく思えて、手紙のやり取りを思い出す。
女の子じゃなくても、宮凪くんはやっぱりウミちゃんだ。明るくて優しくて、強い。
いつか私も、あんなふうになれるかな。
雨上がりの空気は、いつもより澄んで感じる。明日は、いいことが起こる気がした。
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