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prologue
宮凪海くんへ
お久しぶりです。
そちらでの暮らしは慣れましたか?
私はこの春、高校へ入学して新しい生活が始まりました。
人見知りはなかなか直らず、まだ緊張ばかりで友達ができません。
真木さんとは、時々会ったりしていますが……笑わないでね。
宮凪くんとの約束通り、文芸部に入部しました。面白い本があったら、また教えるね。
それから、こちらはまた蛍が綺麗な時期になりました。
いつかそちらへ行った時には、また会って話ができたらいいな。
春原蛍より
アスファルトが溶け出しそうな空の下。じわりと汗が滲む肩丈の髪を揺らしながら、私は約束の場所へ向かう。
通学かばんの中に、お気に入りの便箋で書いた手紙を入れて、ペダルを漕ぐ足は少しだけ重い音を鳴らした。
堤防を上がった角に自転車を止めて、階段を降りる。いくつものテトラポットを渡ると、見えて来た。二人だけの、秘密の場所が。
ちょうど一年前の夏。
指切りした約束を、宮凪くんは覚えてくれていますか?
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