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「……少し、罪悪感が」
不自然な青白さの蛍光灯の光を受けて、男は口ごもった。
見つめていた手の表面から気泡は無くなっていた。
代わりに、もう片方の手には透明な手袋、男の手のひらにぴったりに誂えられた手形が握られている。ビニール製手袋のようで、何ミクロンと薄い。(薄すぎて存在していないみたいだな)
男の疑う目付きを、白衣は数秒も逃さない。
「大丈夫ですよ」
その声は落ち込む子供をあやすような声音に変わる。
「あなたは、彼女の『運命の人になった』のですから」
ビニール製の透明手袋のようなそれを、指先でつまみ上げた男は怪訝そうに見つめる。くんくんと、鼻をひくつかせるが、何の匂いもしない。
「不思議ですよね。自分の配偶者を探す本能って」
白衣の人物は口を開くと、黙っている男に頷きながら述べ始める。
「ここに、彼女が欲しがる相手の匂いが染みついているなんて思いもしないですね。現に、私は匂いをかいだところで、何の変化もない」
無味無臭なそれに、そんな威力があるようには到底思えなかった。
けれど、とんでもなく効果はてきめんした。
(彼女の方からキスしてくるなんて)
男の心の声を代弁するように、その疑問は解かれる。
証明開始。
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