33人が本棚に入れています
本棚に追加
「……少子化のためですか? これを開発したのは」
彼女を得るのに成功したのに浮かない顔をする男を、理解できない様子で白衣は肯定する。
「そうですよ。この国は未婚率が上がり、出生率は下がる一方だ。国家としての危機は高くても、個人の婚姻関係を結ぶとなると、様々な障害がある。
その中で、もしも運命の人と出会えなくて、配偶者を見つけ損ねているなら、運命をつくるしかないですよね」
淀みなく説明する白衣に、国の研究機関の建物の一室で男は溜息を漏らした。複雑な気持ちを抱えたまま、うまく返事も出来そうもない。
「罪悪感を感じてらっしゃらなくてもいいんですよ」
申し訳なさそうな声を発し、白衣の人物が男の手を両手で包んだ。
手のひらは冷たく、無臭だった。
白衣から伸びるプラスチックの手と繋がった次の瞬間、彼女の手の感触や温度、匂いまで細やかに男の脳が再現し始めた。
「ごめんなさい。私の手は温かみがないから、慰めにならないですね」
白衣姿のAI人形に、いいえ、と力無く男は微笑み返した。
ああ、唾液を吸い突くすほど彼女とキスしたい。
ドキドキが全身を駆け巡り、男の体の芯が火照っていった。
了
最初のコメントを投稿しよう!