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ショットバーにて
「お決まりですか」
黒いベストに蝶ネクタイ姿のバーテンダーが微笑んだ。
「あたしはテキーラのオンザロックに、カットライムとお塩をください。おかわりいっぱいするから、お塩はてんこ盛りでお願いします。由紀は?」
「ジントニックにしようかな……」柏木由紀は無難なところを思い浮かべた。
「かしこまりました。テキーラとジンに銘柄の指定はございますか?」
……あ。呟いただけだったから、お願いしますを言ってない。礼儀知らずな客と思われるのはいやだな。
「あたしはクルエボ」奈央子がちいさく手を上げた。
「わたしは、おまかせしていいですか?」
「ちょっと待ってください。……ジンはね、タンカレーにしてください」奈央子が口を挟んだ。あんたは主体性がないとか、ぶうぶう言われそうだ。
「かしこまりました」
「なかなか渋いバーテンさんね」肩を寄せてきた奈央子が目を細めた。「ドリンクのチョイス間違えたかも。大酒飲みだと思われちゃう」
「事実は覆らないわよ」
──俺から聞いたってことは内緒にしてくれる?
何度か会ったことのある彼の友人だった。大学のころサークルが一緒だったらしい。
──なに? まさかコクったりしないわよね。いちおう婚約してるんだからね。
男の硬い視線に気圧されて、ほんの軽口が空回りした。
無言でスワイプしたスマホには、上半身ハダカの見知らぬ女と、ニヤッと笑う男が写っていた。伸ばした男の左手に握られた自撮りだった。
腰から下は切れているが、鷲づかみにされて、いびつに形を変えた乳房と、口を半開きに、眉間にしわを浮かせた女の顔から、まさに最中なのだとわかる。
──どうしてこんなものを……。
──送られてきたんだよ。初めて会ったとき言ったでしょ? こいつ女癖が悪いから気をつけろって。冗談めかすしかなかったけど。
しばらくおとなしくしてたから、落ち着いたんだろうと思ってたんだけど。……まあ、ほかにもやってると思うよ。残念なことだけどね。
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