782人が本棚に入れています
本棚に追加
『このあばずれ!』
そう言って彼女が乗り込んで来たのは丁度一ヶ月前のこと。
付き合っていた皐太の奥さんだ。
二年前に合コンで知り合った彼は三歳上の商社マンで、毎週土日にデートしていたし、とても既婚者だとは思わなかった。
本当に寝耳に水の話だ。
誠実で優しかった彼とじっくり愛を育み、結婚も期待していたくらいだったのに。
『人の旦那に手えだすなんて信じらんない!最低!尻軽女!』
そんなふうに罵られて、言葉が一つも出ないまま立ち尽くすしかなかった。
ショックだった。
彼に奥さんが居たなんて。
自分が知らないうちに誰かを欺き傷つけていたなんて。
怒り狂って泣き叫ぶ彼女の声が頭から離れず、夜もまともに眠れないでいる。
もちろん噂は瞬く間に広まって、顧客の耳にも入り、とてもじゃないけど仕事を続けられるわけがなかった。
温かくてホッとできるような住み家を紹介したい。
そんな夢を抱き働いていたのに、まさか他人の家庭を壊してしまうとは。
罪悪感と絶望で、今では何をするにも気力がわかず、毎日をやり過ごすだけで精一杯。
そんなわけで、高良由枝25歳、人生最大のカタストロフィを味わっている最中だ。
恋は有害。
恋は破滅へ誘う罠そのもの。
そんな教訓だけを残して。
最初のコメントを投稿しよう!