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「何するんだ!」
高橋さんの怒鳴り声にも全く動じずに、達観した目で彼を見下ろす周防さん。
「それはこっちの台詞だよ。どれだけ彼女を侮辱したら気が済むんだ」
真っ直ぐに、毅然とそう言う周防さんが眩しかった。
こんなの、心を奪われない方がどうかしてる。
でも、だめだ。
彼には奥さんが。
「彼女の仕事は素晴らしい。人を癒やし、日々の営みに安らぎを、喜びを与えてくれる」
「周防さん……」
「俺だったら、彼女がどんな仕事をしていようと、仕事なんかしてなくても、ただ傍に居てくれるだけでいい。家のことも、何にもしなくたっていい。休みの日は、彼女の行きたいところに行って、疲れている時は一緒にごろごろして」
「周防さん、」
だめだ。
それ以上言わないで。
「どんなに部屋が散らかっていても良い。俺が片付けるし。本当に、ただ傍に居てくれるだけで、……生きてくれているだけでいいから」
涙と嗚咽が止まらない。
そんなの、嬉しいに決まってるじゃないか。
幸せ以外のなにものでもないじゃないか。
「……どうですか?」
全て言い終わると、真っ赤になって私を見つめる周防さんに胸が高鳴った。
……いや、だめだ。
どういうこと?
だって周防さんは……
「だってもう、周防さん結婚してるじゃないですか!」
泣きながらそう叫ぶと、目を点にして固まる周防さんに面食らう。
「……結婚?」
「……結婚」
その頃には、いつの間にか高橋さんの姿は消えていた。
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