恋じゃのお

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「すみません、そば湯ください」 「かしこまりました!」  今日も今日とて、周防さんは美味しそうに蕎麦を平らげ、私を呼び止める。 「どうぞ」  調子に乗ってつゆにそば湯を注ぐと、ニッコリ笑う周防さん。 「由枝ちゃんについで貰うと、余計美味くなります」  優しい笑顔に溶けそうになる私に、四方八方から「恋じゃのお」が飛び交った。  それでも私は、もう必死になって否定したりはしない。 「ええ、恋です」  そう誇らしく笑えるようになった。 「うえーい!」  ハイタッチしてくれるおじいさん達と、可笑しそうに笑うおばあさんと女の子。  優しく見守ってくれる茂夫さんとよし子さん。  周防さんは苦しそうに眉を下げて笑い、そば湯を一口すすった。 「明日定休日だけど、二人でどこか行くのかい?」  茂夫さんの質問に、私達は顔を見合わせて頬を緩めた。 「はい、明日は」 「湖の近くの家を見に行くんです」  そこであわよくば、初めてのキスが出来れば。  付き合って二ヶ月にもなるのに、未だ進展しない二人だ。  周防さんは、びっくりするほどピュアだった。    ……そんなところも好きだけど。 「淡い恋じゃのお」 「ええ!」 「恋じゃのお」 「そうなんです!」 「恋じゃのお!」 「もっと言ってください」  そろそろおじいさん達も飽きてきたようで、急に揃ってスンとなる。 「……まあ、後は勝手にやってください」  おじいさんの一人がそう〆て、私達は盛大に笑った。
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