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男は悲しそうな顔でうつむいた。怖いのに、その表情を見ると胸が締め付けられそうに痛くて……本当は知っている人なんじゃないかと思って見つめてみるけど、やっぱり知らない人だった。頭が痛くなってきた。困惑する悠真(ゆうま)に、男はさらに話しかける。
「高校生……なの? まさか、一年生?」
「えっ……うん…………先週、入学式だった…………」
「…………そう」
男はゆっくり立ち上がってベッド横のクローゼットから何かを取り出す。ハンガーにかかった服だ。男のものにしては少し小さいような気がする。悠真は意を決して近寄ってみる。男は突然襲いかかってくる……わけでもなく、服とティッシュをそっと渡してくるりと後ろを向いた。
「これ、君の服。ずっと裸じゃ寒いよね、とりあえずお互い服を着てから話そう」
悠真は服を受け取って、男をぼうっと見つめた。何が何だかよく分からないが、とりあえずティッシュで股を拭いた。ありがたいことにウェットティッシュが近くに置いてあったので、拝借して体も拭いて服を着た。
知らない間に右手の薬指にシルバーの指輪がはまっていた。何だろうこれ、と思いつつ、良く分からないまま着けたままにしておく。指輪ごと手を拭う。
……何もかもよく分からないまま、悠真は床に正座したまま男をうかがう。悠真が服を着ているあいだに男も着替えたらしく、端正なイケメンがベッドに座っていた。イケメンの威力ってスゲーな。もうこれ許せるぞオイ…………いや、やっぱり無理! 腰と尻が痛いし。悠真は腰を撫でながら注意深く男を見る。
「あと、これ……君の財布」
「どうも……」
見たことのない財布。中身を開けると、千円札が三枚に小銭がたくさん。レシートも結構入ってるが、全く覚えがない。複数枚のポイントカード。そして……免許証。
「え、これ…………何で?」
「去年ぐらいに、学校に行きながら免許を取ってた」
「おかしくね?」
悠真は不思議に思いながら免許証を見る。見慣れた自分の顔が犯罪者チックに写っている。生年月日も確かに自分のもの……だが、交付の年月日がおかしい。今から二年後に免許を取って、さらにそれから三年後に更新することになっている。
それに一番の問題は年齢だ。普通自動車免許は満十八歳以上でなければ取得することができない。高校在籍中に自動車学校に通い、満十八歳で実技試験を行ったとしても、最低でも高校三年生になっていなければおかしい。
「…………十八歳以上じゃないと免許取れないだろ……俺、十六歳だよ」
「君、今十九歳だよ」
男が表情も変えずにとんでもないことを言い放った。悠真は本当に何が何だか分からない。自分はまだ十六歳で、高校に通っていて、昨日の夜は学校に行く準備をしていて…………起きたらこうだった。
「君が十六歳の悠真くんだったとするなら、ここは君から見て三年後の世界だ」
悠真は口をぱくぱくさせることしかできなかった。一朝一夕には信じられるわけがない。知らない男と全裸で一緒に寝て、起きたら股からエラいモンが出てきて、挙げ句の果てに三年後の未来にタイムスリップしたらしい。もう何が何だか分からない。分かるわけがない!
そんな混乱の極みの悠真に向かって男はさらに爆弾を放り投げる。
「まだ名乗ってなかったよね、俺の名前は佐和光輝(さわ こうき)」
「俺たち、付き合ってるんだよ」
しっちゃかめっちゃか。[形動]物事が入り乱れているさま。めちゃくちゃ。
まさに、今の悠真を表す言葉だった。
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