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いつもより早く目が覚めたから
黛悠真(まゆずみゆうま)が目を覚まして最初に見た物は、見慣れた天井でもカーテンでも布団でもなく、見知らぬ青年の顔だった。
明るい茶色の髪の毛は段のついたショート。長い睫毛、すっと通った鼻筋、吹き出物一つない肌。寝顔だけでもとんでもなく整っていて、俗に言うイケメンといってもいいだろう。何で俺の布団でイケメンが寝ているんだ?
悠真は寝ぼけた頭で昨晩の事を一生懸命思い出そうとするが……思い出せない。風呂から上がって学校に行く準備をして……それから目覚ましをセットして、普通にそのまま寝たはずだった。謎のイケメンが入り込む余地など全くない。おかしい。
悠真は布団を剥いでみて驚いた。このイケメン、全裸である。もう何から何まで丸見えだ。ほどよく筋肉のついているしなやかな体、自分のものより一回りぐらいでっかいアレ……えー、何で俺の布団で寝てるのこの人。こわい。
慌てて辺りを見回してみると、そもそもここは悠真の部屋ではない。漫画だらけの悠真の部屋を数倍オシャレにしたような、モデルルームのような綺麗な部屋だった。何で全然知らない所で全裸の男と寝てるんだ俺……落ち着け、とりあえず着替えよう……と思ってパジャマを脱ごうと思ったら、そもそも着ていなかった。
「うわっ…………!」
性に対する知識も保健体育の授業どまり・女子と付き合ったこともない悠真には酷すぎた。ベッドで全裸の二人で寝てヤることは一つ。でも悠真は男でこのイケメンもどこからどう見ても男で……何がどうしてそうなったのかさっぱり分からないまま、悠真は慌てて布団から飛び出す。
どろり。
立ち上がった拍子に……立ち上がった拍子にとても嫌な感じがした。それは今まで悠真が経験したことのないものだった。股の間から何か出てきて、太ももを伝って下に垂れるような……おそるおそる下を見る。
何かが尻から出てきている。どこから? 尻から! 尻から何が? 血? 痔? 何かそういえば尻が痛い。とりあえず触ってみる。ベタベタする液体が手についた。白く濁って独特の臭いのするそれは、いくら奥手な悠真でも十分知っているもの。
「うわっ……うわああああああああ!!!」
知らない所で見知らぬ男と全裸で寝て、起きたら股からそういう液体がドロドロ出てきた。ついでに腰とか尻が痛い。簡単にまとめるとこうなるが、悠真は怖くて怖くて仕方がない。気持ちの悪い感覚に耐え、部屋の隅に逃げる事しかできなかった。
「…………んー?」
悠真がガタガタと震えていると、どこからともなく間の抜けた声がした。もぞもぞと動く布団の塊。謎の男が 起 き た。悠真は何をされるのか分からなくて怖くて、震えながら布団を凝視することしかできない。
「おはよ」
男は大きく伸びをしながらにこやかに言った。爽やかで綺麗な笑顔に一瞬見とれる悠真だったが、すぐに『こいつが俺に変な事をしたんだ』と思い直し、精一杯の虚勢で問いただす。
「おい、あんた! お、俺に何したんだ、この変態! それ以上こっちに来たら、警察に通報するぞ!」
「…………え?」
「俺が寝てる間に、変な事しただろ……気持ち悪い! 俺、高校生だからな、未成年だからな! 俺が通報したらあんた一発で捕まるぞ!」
「…………どうしたの…………何でいきなりそんな事…………それに、高校って……」
「そもそも、あんた誰なんだよ!」
悠真は虚勢を張るうちに怒りが芽生えてきて、男を睨みながら叫んだ。鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして慌てる男は、その言葉を聞いて、びくりと身体を震わせた。
「…………俺のこと、分からないの…………?」
「知らねーよ」
「そんな…………」
「当たり前だろ、初めて会ったんだから! それより服出してくれよ、家に帰る!」
「……………………」
「…………俺は知ってる、君のこと」
「は?」
「高校に入学して将棋部に入ってる。全国中学生選抜将棋大会で4位になった事がある」
「!!!?」
「甘いものが好きで部屋が漫画だらけ。あと冷え性の黛悠真くん」
「!? 何で……何で俺の事知って…………や、やだ……何だよお前…………」
悠真は腰を抜かさんばかりに驚いた。知らない男が自分の事を詳しく知っている。それもただの知人レベルではない、嗜好や身体的な事まで……。驚いて驚いて、怖くなってきた。
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