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 場所は住宅街。当然、江畠以外の人が歩いていてもおかしくない。けれど、彼女が角を曲がれば背後の人物も角を曲がる。速度を上げれば、相手も同じく速度を上げた。  いや、向こうも駅を目指しているのかもしれない。それなら方角が一緒になるのは当たり前だ。自分に言い聞かせてみるも、そぞろな気分は拭い取れない。  ならば、と江畠は駅へ続く道からそれた。こちらの道からだと、駅まで遠回りになる。けど、これで背後の人物から離れれば、不安を払拭できるだろう。  しかし、この思惑は外れることとなる。相手も同じように遠回りする道を選んできたのだ。  どうして……まさか、本当に後をつけているの?  にわかに血の気が引く。こんな朝から不審者に出くわすなんて。こうなると遠回りの道を選んだことを後悔した。あのまま進んでいれば、すぐに人が大勢いる駅に着くことができたのに。  もう水溜りなんて気にしてはいられなかった。小走りになる江畠の足元で、盛大に水飛沫があがる。ストッキングやスカートが濡れるのに構わずに、一刻も早く安心できる場所に行きたい一心で走り続けた。  ようやっと駅に着いた後も、耳にはあの足音がこびりつき、しばらくは消えなかった。
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