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 鉛色の空が水溜りに映っている。後から後から落下する雨粒に歪む空を、黒いパンプスが踏みつけた。  ぱしゃっと飛沫があがり、江畠は眉をひそめる。気をつけて歩いていたつもりだったが、うっかり踏んでしまった。今日は家を出るのが遅くなってしまったので、気持ちが急いてしまったようだ。  パンプスの中に水が染み込む不快な感覚がして、彼女はいっそう顔をしかめる。  一本電車を遅くしたところで、始業時間には十分間に合う。それよりも、これ以上靴が濡れる方が問題だ。そう判断した彼女は、歩く速度を緩める。  急ぐのをやめた途端、耳に雨音が入ってきた。ざあざあという潮騒に混ざって、雫が落ちる涼やかな音が聞こえる。どこかの軒から滴っているのだろうか。  濡れるのは嫌だが、江畠はこの雨音だけは好きだった。雨音をBGMに部屋で寛ぎながら読書をするのが、雨の日の彼女の楽しみである。とはいえ、あくまで外出しない日に限られるが。  音は心地良いのにな、と耳をすました時、ふと彼女は違和感を抱く。最初は気のせいかとも思ったが、意識するとそれはよりハッキリと聞こえてきた。  足音だった。  コツコツという音と、水溜りを踏む音とがする。江畠のものではない。前方には人はおらず、ならば足音の人物は背後からやって来ているのだ。
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