恥ずかしがり屋の前田さんは今日もアイツの口を塞ぎたい

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不安が晴れた表情の私を見た後藤くんは一つ頷き、何かを決心したかのような表情で私に向き直った。ずっとスカートを握りしめていた私の手をほどき、小さな手が私の両手をしっかりと握った。 そして。 『……ぼく、絶対、チカちゃんのパンツ見たってこと誰にも───』 パ、のところで握られていた手を振りほどき、 見た、のところで両手を発信源に向けて、 誰にも、のところでやっと、後藤くんの口を塞いだ。 同じ目線のくりくり丸くなった目をキッと睨み、震える声を絞りだした。 『言わないって……っ、言ったのにぃ……!!』 恐怖と蘇った羞恥にプルプルと震える私に何を思ったのか、天使のような後藤くんの目が更に丸く見開かれ、固まった。 遠くにいた母親たちの『大丈夫ー?』なんて間の抜けた声にビクリと体を揺らし、後藤くんの口を塞いでいた手をパッと下してスカートで拭う。 何事もなかったかのように、暗黙の了解とばかりに二人そろってまた花壇に向き直ってしゃがんだ。 しばらく無言で土をつつく後藤くんが次に何を喋るかが気になって私はまたずっとスカートを握りしめていた。 そしたらなんて言ったと思う。この、後藤少年は。 『……チカちゃん、言われたくないんだよね?』 バッと横を見ると、天使の後藤くんは消えていた。 まるでおもしろいおもちゃを見つけたような顔で私に笑いかけていたのだ。 言われたくないって、もちろんあのことである。 『パ───』 今度は一音目で口を塞いだ。早かった。 でも、口を塞がれているというのに後藤くんの目は三日月型にニンマリとなっていた。 * 「たまんねぇな、」 高くなった背を屈めて、わざわざ私の耳元に寄せていた顔が離れた。 つられるように見上げると、あの頃の三日月型の目とは違う、まるで知らない男の人のような目で私を見ていた。 ───悔しい。 もうあれから何十年経っただろうか。 私は地元を離れ、一人で生活してきた。なんとか一人で衣食住をまかなっている。 最初のうちは色々あったが、私は強くなったのだ。 恥ずかしくて丸まって泣いてるだけでは都会で一人では生きていけないのだ。 急に昔の知り合いに会ってペースを乱されただけ。 今の私は昔の”パンツ丸出しチカちゃん”ではないのだ。 大騒ぎだった頭の中が急に冷えた。 バックスリットが裂けたスカートをウエストでくるりと右に回し、”やや深め”なスリットを太もも側に回す。これでなんだか派手なスカートに見えなくも……まあ、苦しいがそういう服だと思えば、まぁ。ね。 後藤くんも私が何をするのか見ていたのか、急に出てきた白い太ももに動揺したのか体が揺れた。 それを見た私は気を良くして、先ほどまでキュッと巻き込んでいた唇を引き上げ、顔を傾げて後藤くんを見上げた。
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