9人が本棚に入れています
本棚に追加
先ほどまでの嗜虐的な表情が幾分か和らいだ男の唇に指を近づけた。
避けれるはずなのに後藤くんはなぜかされるがまま、呆けたように私の指を視線で追う。
指が薄い唇に到達し、ふわりと触れる。
何が起きるのかと待っている後藤くんの戸惑った表情に、なぜか私はゾクゾクした。
「───恥ずかしいから、二人だけの秘密にしようね」
意外と柔らかい唇の上、指を軽く滑らせる。
「内緒だよ」
ニコッと微笑んで、ピシリと固まった後藤くんの未だ続く壁ドンの腕をくぐり抜けて
いざ更衣室へ……!と思ったところで、また捕まれ逆戻りした。
「なんでよ!今のはこれで終わりだったでしょう!?」
「バッ……!!そんな恰好で歩くのかよ!?」
「ずっとこのままこんなところでくっついてる方が変でしょう!?」
ぐぬぬぬ、としばらく睨みあった後、先に動いたのは後藤くんだった。
壁から腕を離し、スーツの上着を脱ぐと私の腰に巻き付けた。
「シ、シワになっちゃうよ!?」
後藤くんはギュッギュッと二重結びをすると、少し離れて一つ頷き、ジトっとした視線を向けてきた。
「……そろそろ、戻っていいですか。”前田さん”」
「……ハイ」
なんで私が引き留めたみたいになっているんだ、とか
このスーツどうするんだ、とか
会社では”そういう距離感”なのね、とか
とかとかとか。
「はぁぁあぁぁっぁ…………ッ!!」
今日も人生で最も恥ずかしい瞬間ランキングを更新してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!