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「俺もずっと見てたよ、佐伯さんの事。隣の席になって密かに喜んでた」
「う、うそ、ほんと」
「でもさ、佐伯さんてば授業中も窓の外をずーっと見てるよね。こっち見ずにさ。俺、心の中でこっち向け~って念を送ってた」
「窓に映る多根君を見てたんだよ。恥ずかしくてまともに見れなかったから」
「マジで?可愛いなぁ…」
「かわっかわ?!」
「窓に映った俺が佐伯さんのこと見てたの気づかなかったの?」
「雨を見てるんだと思ってた。憂鬱そうだったし」
多根君は頭を搔いた。
「あれは憂鬱じゃないよ、恋慕の眼差し」
「レンボー」
「レインボーに掛けてる訳じゃないよ、恋慕。詩的でしょ?」
「し、しゅ、しゅてき」
「素敵?俺ステキ?」
違うけど、違わない。
奈穂はもじもじと体を揺らしながら頷く。
多根君は照れ臭そうにしながらも、奈穂の手を取って、きゅっと握った。
「相傘楽しみ」
頬を染めて手を繋ぐ二人が、雨で滲んだ窓に映る。
ああ、あんなに切なく胸に響いた雨音も、
今日はこんなに甘く心を擽るの。
奈穂はそのふわふわとした心地を味わい、蕩けた。
ついつい浮かんでしまう心配事も、今日は雨音がかき消してくれるようだ。
私、頑張りたい。
やっぱり、もっともっと、多根君と仲良くなりたいもん。
奈穂は繋がれた手を、指先でそっと握り返した。
おしまい
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