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「いいよ」
「結構強めだよ?濡れて風邪ひくよ」
「じゃあさ、入れてよ」
身をかがめて顔を寄せる多根君が、とんでもないことを言い出した。
奈穂はその可愛い顔に釘付けになる。
「佐伯さんの傘に入れて」
奈穂は、ぽかんと口を開けた。
そんな、そんな、都合の良い展開ある?
「ずっと待ってたんだけどなー、傘入れてくれんの。ずっと玄関で傘握ったまま俺の事見てたでしょ?」
「へっ、な、な、」
「俺から頼めば良かったのかもしれないけど、もしかして勘違いだったら恥ずいし、なんか、意地になっちゃって。それに…」
「にゃ、に、にゃ」
多根君はぷッと吹き出した。
「そうやって、テンパっちゃうと思ったんだ。きっと俺も変な風になっちゃうし。そんなの誰かに見られたら恥ずかしいでしょ、お互い」
奈穂は涙目になり、俯いた。
…信じられない。
「今日が絶好のチャンスだったの。計画通り雨が降ってくれて良かった。佐伯さんが面談が終わるまで待ってるから、一緒に帰ろう」
奈穂は俯いたまま、何度も頷いた。
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