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そうだ。奈穂自身は平凡で、ちょっぴり心配症の面白味のない人間だ。
対して多根君はいちいち面白い。
高二で同じクラスになり二回目の席替えで隣の席になってから、あの惚けたイケメンは奈穂の心を擽り続けている。
出来ることならもう少し話してみたいが、自意識過剰気味の奈穂は色々考えてしまい、1ヶ月を過ぎた現在も、事務的な会話を交わす程度だ。
ザーザーと降る激しい雨の前で困り果てる後ろ姿を見ながら、カバンの中で握り締める折り畳み傘は取り出せぬまま。
…そう、意気地無しなのだ。
そんな事を繰り返す内、雨音を聞くと切なく胸が疼くようになってしまった。
勇気のない自分を思い知らされるようで悲しくなる。
まともに話したことも無いくせに、相傘をしようってのがそもそも無謀よな。
奈穂は机に上体を伏せて窓の外を見上げる。
6月の空は今日もどんよりと曇り、しとしとと細かい雨を落としている。
折畳み傘もタオルもカーディガンも、替えの靴下まで、奈穂の大きなカバンには準備されている。
けれど、気になる男子に話しかける用意はいつまで経っても整わない。
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