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昼休みの終了を告げるブザーが鳴り、疎らだった教室の中に生徒たちが戻ってくる。
机に頬杖をついて俯く奈穂の髪が、隣に戻ってきた人物が巻き起こす風を感じ、視界の端にその制服を捉えた。
「次の授業なんだっけか、日本史か」
残念、古典です。
心の中で突っ込むだけの所詮モブ。
多根君はごそごそと机を探っている。
そして、ドチャ、と音を立てて教科書やらノートを床にばらけた。
その内の一冊が奈穂の足首に立てかかる。
奈穂は内心ドギマギしながらそれに手を伸ばし、そっと机の上に置いた。
「あー、わりぃ」
「うん、次の授業それだよ、古典」
多根君は掻き集めた冊子を両手に持ち、体を起こす。
「何これ古典?こんなんあったっけ?」
「あったね。週一でコマあるね」
「へぇ、印象にねぇわ」
多根君は午後イチの授業は大抵寝てるからね。
盛大な寝息を立てながら。
奈穂はクスッと笑うと自分も教科書を出した。
「なあ」
隣から聞こえた声に、固まる。
一瞬、自分に掛けられたものかを疑い、周囲に耳をすました。
「佐伯さんさ、進路相談明日だよな。何番目?」
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