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そして翌日、進路相談の順番がくるのを奈穂は一人教室で待っていた。
そこへ、多根君が現れた。
「佐伯さん、順番代わってくんね?だめ?」
教室の扉を半分開けて覗き込む多根君の懇願を、奈穂は快く引き受けた。
「ありがとな。じゃ、先生に言ってくるわ」
閉まった扉を暫く見つめた後、奈穂は手元のスマホに視線を戻し、口元を緩ませた。
相傘は実現出来ていないけれど、昨日も今日も話せた。
こんな些細なことで菜穂を幸せにしてしまえるのだから、多根君は凄い。
盗み見ては胸をキュンキュン鳴らすだけだった切ない水色の毎日が、カラフルに色を変えたように感じる。
今なら、人見知りを返上して誰にでも話し掛けれそうな気さえする。
単純なんだなぁ…
奈穂は一人であるのを良い事にニマニマと笑う。
そこへ再び教室の扉が開く音がして、多根君が現れた。
今度はつかつかと教室の中に入ってくる。
忘れ物かな…?
瞬きしながらその姿を目で追っていると、多根君は窓際の席に座る奈穂にどんどんと近付き、前の席の椅子の向きを変え…
なんと、向かいあって座った。
奈穂は息を止めた。
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