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「先生に言ってきた。暇だからさ、佐伯さん相手してよ」
「えっ、は、良いけど」
奈穂は五月蝿く鳴る鼓動を抑えつつ、目を伏せた。
思いもがけないラッキーだけれど、果たしてまともに会話なんて出来るんだろうか。
つまんないと思われたら…いや、絶対思われるな。
奈穂はスマホを握りしめ、上手くやり過ごす方法を見つけるべく必死で頭を巡らせる。
「連想ゲームとか、どうよ」
多根君は、狭い机に肘を付いて身を乗り出す。
奈穂はその近すぎる距離に恐れをなし、思わず仰け反った。
「い、いいよ。でも古典的なゲームだね」
「結構面白いよ?…じゃ、俺からね、“雨 ”」
「今日は晴れてるけどね」
「良いんだよ、ほれ、次」
「え、えっと…か、捨て猫!」
「なんで捨て猫…ダンボールに入ったあれ?」
「そう、それでイケメンが拾って、偶然見掛けたヒロインがそれをきっかけに恋に落ちるっていう」
多根君は吹き出した。
奈穂はおどおどと俯く。
しまった、変な事言っちゃった。
「良いよ~、佐伯さん、これは思った以上に楽しめそうだな」
多根君の屈託のない笑顔に、奈穂の心臓がどこどこ鳴った。
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