本編

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「ほ、ほら、私は隣の席だから!」 いつも盗み見てることはバレたくない… 今日も朝から数え切れないほど見ちゃってる。 「…そうかな?佐伯さん、隣の席だけど、あまりこっち見ないじゃん」 「み、見てるよ!!すごく!!」 思わず意気込んで答えてしまい、同時に失言であったことに気付く。 「……ふうん」 机にうつ伏せたままの多根君の、その頭の上に、『…ふうん』という吹き出しが浮いているように見えた。 その白い雲に含まれる感情は見えない。 …怖くて知りたくない。 けど… 奈穂は手に汗を握りながら、必死で次のコマを考える。 次のターンは恐らく奈穂だ。 だとしたら、なんて言う? だって、もっと話したい。 もっと仲良くなりたい。 ここで挫けてる場合じゃない。 「雨音!」 多根君は机に顎をつけたまま顔を上げ、たった今声を発した奈穂を見た。 長い前髪から切れ長二重の瞳が覗く。 「雨音だよ、多根君」 「…もしかして連想ゲーム続いてんの?寝癖は?」 「これ、使って良いよ」 差し出したスプレーボトルを至近距離でじっと見つめつつ、多根君はボソッと漏らす。 「使ったこと無いからわかんねぇ」 「シュッてして、ブラシで梳かすだけだよ」
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