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 どうしてそんな流れになったのか、分からない。ただ飲み会のノリの流れで、子供の頃に体験したもっとも怖い記憶について、それぞれ披露し合うことになった。要は怪談大会だ。飲み会のメンバーは同期の6人だったから、百物語にはほど遠いが、どのみちあんまり長いとみんな飽きてしまう。いちばん怖い話をした人が奢られることに決まったが、6人全員に回るかも怪しいな、と僕は思っていた。  春の夜の居酒屋、新人研修が終わった打ち上げで、明日には同期の半分が新人営業マンとしてそれぞれ地方に飛ばされていく、そんな飲み会だった。そんな飲み会で怪談を披露し合うのが正しいのかどうかよく分からないが、酒が入っての流れというのはそんなものだ。高知に行く彼も大阪に行く彼もノリノリなので良いのだろう。僕は幸運にも本社勤務なので引っ越しの必要はなかったが。どちらかと言えば僕は同じく本社勤務になる2人の女の子たちと話がしたかったけれど、まあこの先そのチャンスはいくらでもあるのだ。高知や大阪の彼とは違って……。  などと不埒なことを考えている間に、最初の話が始まった。大阪行きが決まっている埼玉出身の元テニス部の佐々木という男が、指名されてもいないのに自分の話を始めた。それは確かにこなれた話しぶりで、そう言えば怪談大会への流れを誘導したのも彼だった。小学生の頃に近所の廃墟を探検して、お札がいっぱい貼られた部屋を見つけた話だ。よくある話だったが、こなれているだけによくウケた。女の子たち……総務配属の谷口さんと営業事務の山崎さん……がきゃあきゃあ言って、座は大いに盛り上がった。
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