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それ以来彼は毎年、八月七日になると彼女との出会いを繰り返していた。
恐怖などない。香織と会えるのが嬉しくて、むしろその日を目標に一年を頑張るような。彼にとってそれだけ八月七日は大切な日となった。
何年も何年も、毎年歳を重ねていく丈一の姿を見ても、若いままの香織は同じ反応を見せる。お決まりのセリフしか交わせないのに、どうしても心が弾んでしまう。
「今年もありがとう」と墓石の前で声をかける。手を合わせながら、丈一は心の中で香織に話しかけた。
君がいたから、君の存在があったから、俺はここまで頑張ってこれたんだ。
感謝してる。本当に感謝してる。
心配しなくても光綺はもう立派に育った。
社会人として元気にやってるよ。
だけど、俺はだめだな。最近は体が衰えてきて、うちに帰るとすぐに眠くなってきやがる。夏なんて特に。
それでも、八月七日の前夜だけは毎年ドキドキして眠れなくなっちまうんだ。
君に会えると思って。バカだよな。
そっちの暮らしはどうだ? いい男はいないよな? 俺がそっちに行くまで、浮気なんてしないでくれよ。頼むよ。
何回でも繰り返す。
何度だって出会うから。
来年また、同じ場所で会ってくれる?
それは、暑い夏の日のことだった。
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