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面会が可能になったのは、その後丸一日が経過してからだ。
丈一は仕事を休み、自分の母親を家に呼んで家事を任せていた。光綺はまだ妻の容態を理解していないらしく、「ママ、はやくげんきになるといいね」と言って無邪気に笑った。
寂しいはずだろうに。それでも、苦しんでいるママのことを気遣っているような言葉に、丈一は再び涙を流した。
香織のことは家族が常に見ているような状況で、面会は二人ずつしか認められなかった。
ICUで妻の姿を見ていると、泣かないようにと決めていたのに涙が襲ってくる。
「丈一さん、何か喋ってあげてよ」
香奈も涙を堪えているようだった。
「……そうだよな。うん。香織、光綺は元気だよ。いつもと同じように、ずっと笑ってる」
「そうなんだ。光綺くん、強いね」
香奈の何気ない言葉に、また顔が歪みそうになる。
「ダメだ、明るい話しよう。何がいいかな」
ふぅー、とため息を吐いた彼は、香奈に戯けてみせた。
「明るい話か。あ、そうだ。お姉ちゃんとの出会いとか、わたし聞いてなかったな。聞かせてよ」
「え、ここで?」
「そうだよ。お姉ちゃんも聞きたいと思うよ」
唐突にそんなことを言われて、丈一は少し上を向いた。「そうだな」と考えてみる。
妻との出会い。それは、今思い出してみてもおかしなものだったと思っている。
運命とか、そんなものがあるとは信じていなかったが、もしかして本当に存在するのかもしれないと感じた出来事だ。
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