何度だって出会うから

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 随分と歳を取った。  腹も出て、頭は白くなり、額も広がっている。息子はすでに成人して、今年から社会人だ。 「社会は厳しいぞ」と伝えてはいるが、「わかってるよ。父さんを見ていればそれぐらい理解できる」と生意気なことを言う。  息子は仏壇の前で手を合わせ、母親に伝えることも忘れてはいなかった。  八月七日。香織と初めて出会ったあの日。花の香りの日、と語呂合わせで覚えていたからなのか、丈一はその日を忘れることはなかった。  彼女に会いたい。何度そう願ったことか。それが叶わないことなど分かりきっているはずなのに、香織がいなくなった翌年の夏、丈一は交差点にいた。その日はとても暑い日で、立っているだけで体力が奪われるほどの酷暑だった。  もう一度あの日あの時間帯にあの場所へ行けば、香織に会えるのでは? という馬鹿な考え。  そんな話があるわけないと思いながらじっと彼女の姿を待っていた。夕方の四時を過ぎた頃、信号が青に変わり、反対側から人が流れるように歩いて来る。その中に香織は確かにいた。  出会った頃と同じように、水色のワンピースを着た姿で。  驚きで固まってしまった丈一は、横断歩道の中で通行人とぶつかってしまう。怪訝な顔をされ、頭を下げて謝る。その後、彼女が歩いていった方を見るとすでに香織は遠くの方へ向かっていて、近くの百貨店へと入るのが見えた。慌てて追いかけていく。  同じ。出会ったときと全く同じだ。  彼は店に入り、エスカレーターで駆け上がる。彼女が居たのは、やはり五階のおもちゃコーナー。  恐る恐る話しかけると、香織は全く一緒の反応を示した。
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