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「花火の一発目、どっちから上がるんだろうな」 「確率の問題になりますが、やはり真ん中ではないですか?」 「真ん中? それって、どっち?」 「ですから、こちらの方角……っ、先輩っ?」 「ふふっ。一発目のキス、ご馳走さん」 「キスの回数に一発目と言うのは、やめてください。不適切です」 「不適切?」  濃茶色のハーフリム着用、お堅い印象の眼鏡男子が眉間にくっきりと皺を寄せ、抗議をぶつけてきた。東京と京都、そこそこ離れた遠距離恋愛の相手が不意打ちのキスを仕掛けたっていうのに、反応がクレームだけとは。おい、奏人(かなと)、どういうこった。 「……今のキス、今日、再会してから六回目ですよ」  お、テンプレの無表情が、ちょい崩れてる。クレームは照れ隠しってわけか。相変わらず、わかりにくい可愛さだ。 「そうだっけ? でも、浴衣に着替えてから一発目だから適切な表現だと思うぞ」  新幹線のホームで、再会してすぐにそっと一回。その後、隙を見つけては重ねたキスの回数をちゃんと数えていたらしい可愛い恋人に何か褒美が必要だなと心の手帳にメモしてから、ドヤ顔で自分の主張を通す。  三ヶ月ぶりの夜デート。初めての花火デートを、実はめちゃめちゃ楽しみにしていた。 「俺が贈った浴衣を着てるお前との、今が初キスだろ?」  俺が見立てた流水文様の浴衣地は、想像以上に奏人に似合っている。その誇らしさと嬉しさと、思いがけずその口から聞いた『煌星』というワードが諸々の想いを引き出し、混ぜ合わせ、俺の思考をぶるぶると揺らしてくるから、どっしり構える余裕なんて無い。  多少、おかしなテンションになっても仕方ないと思う。  本気の恋って、そういうもんじゃねぇの?
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