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第一話 新田千夏①
「喫茶 朱河」。新宿に店を構える、落ち着いた雰囲気の内装と、二二歳という若さで一人店を切り盛りする愛想の良い店員が創り出すこの空間は、インターネットやどの文献にも載っていない隠れた喫茶店となっていた。
その為か、毎日客は杖をついた一人の老人だけだった。その老人は今日も窓側の特等席で珈琲を嗜んでいる。
すると、「カラン」と扉が音を鳴らし、朱河 愛人の目には肩下程まである黒髪をなびかせた綺麗な女性が映る。
「いらっしゃいませ。何名様で…」愛人が言い切る前に女性は足早に一番奥のカウンターに腰をかけた。
愛人は気を取り直し、その女性に水を出した。
「日替わりランチ一つ」女性が口を開く。
「かしこまりました。AとBがございますが」
「Cで」
女性の言葉に愛人の体が反応を示す。
「珈琲はいかが致しましょうか」
「深煎りで」
「かしこまりました。料理が出来上がるまでの間、宜しければアンケートの御協力をお願い致します」愛人は表情を変えず一枚の紙とボールペンを渡し、控え室へと向かった。
中に入り、黒い無地のエプロンを取り、目元まで下ろしていた長い前髪を上げる。黒いネクタイを締め、ジャケットに袖を通した。
相手は客ではない、「依頼人」だ。
「喫茶 朱河」。大切なものと引き換えにどんな依頼でも遂行してくれる、隠れた店。
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