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「名前、竜児にしようと思うの。あの人の龍をもじって竜の字にして、児童の児」
出産した病院で微笑む姐さんは、見舞いにきた鬼怒川にそう言った。
「児童の児って」
「そう。玲児もそうすると愛着湧くでしょ?それでれいじを竜児のお世話役にする」
「……え?親父はなんて?」
薄めのサングラスの向こうにある、切れ長の瞳が見開かれた。
「わたしの好きにして良いって。竜の響きが一緒で浮かれてるわよあの人」
「子守りなんて、自分には……」
「できる。あなたにしか出来ない。どうせあの人は子育てなんて美味しいとこしかしないわよ。ね、2人で育てましょ?」
「自分に拒否権ってあるんすか?」
鬼怒川の言葉に、姐さんは面白そうにコロコロ笑った。それに釣られてか、赤ん坊の竜児も鬼怒川の腕の中で笑みを浮かべている。
「ふふ、父親の字をひきついだ、良い名前でしょ?」
「ノーコメントでお願いします」
新しい命の重みと、体重の軽さのアンバラスを感じながら、鬼怒川は突拍子の無いことを言う女の笑い声を聞いていた。
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