still alive

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 その日は、全国が生憎の雨だった。 夜のニュースを締める天気予報が明日も雨であるとお天気お姉さんが笑顔で述べた瞬間、番組が急に切り替わった。画面に映し出されたのは我が国の首席宰相である。 〈全国の皆様、只今より首席宰相の重大声明があります〉 この瞬間、ニュースを観ていた全国民が「なんだろう」と首を傾げた。政治に興味の無い者は他のチャンネルに切り替えるが、全局が首席宰相の重大声明の中継を行うのであった。  首席宰相が国旗に一礼し、演台に立ち、水を一杯呷った。その瞬間、一部の国民は違和感を覚えた。いつもは首席宰相がこのような声明を出す時はプロンプターを丸読みするだけなのだが、プロンプターそのものが無いのである。 官僚の書いた原稿ではなく、自分の言葉で伝えたいと言う意志の表れであった。 数秒、間を置いた後、首席宰相は重い口を開いた。 「本日、ここにこのような声明を国民の皆様方に行うことは、私にとって大変遺憾の極みでございます。かねてより、我が国は諸外国と共に平和の道を歩んできました。しかしながら…… その期待は我が国だけが持つものだと言うことを知りました」 首席宰相は一旦口を閉じ、数秒程の沈黙を守る。聞こえるのはカメラのフラッシュ音のみ。その音もテレビで観る皆は全国に降る雨の雨音に覆われて聞き辛い。皆、挙ってテレビの音量を上げにかかる。 首席宰相は呼吸を整えながら、いくつかの国名を述べていく。いずれも我が国とは「敵対国」に類する国である。 「今、述べた国々より…… 国々より……」 首席宰相は嗚咽を上げ始めた。一条の涙を流し俯いた後、手の甲で涙を拭った。そして、涙声で述べた。 「宣戦布告を受けて…… しまい…… ました…… 我々も戦争回避のための交渉を続けてきたのですが…… 懸命の努力にもかかわらずに、交渉は決裂。本日、今日より専守防御に則り、我々政府は国民の命・財産・国土の防衛にあたることになります……」 夜のバラエティ番組を楽しみに待つも放送されないことに腹を立てた一人の少年視聴者が一緒にテレビを観ていた父親に尋ねた。 「ねーねー? 専守防御ってなーにー?」 父親はうなりながら子供にどうやって説明したものかと考えた。可能な限り子供にもわかりやすいように言葉を選んでの説明を行う。
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