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1 前奏曲(プレリュード)
幹線道路に面したワンルームマンションの部屋の鍵を開けて中に入ると、それまでの都会の喧騒が嘘のような静寂に包まれる。
目の前を激しく往来する車やトラックの騒音を遮るための二重窓は、まるで私を異空間に閉じ込めているのではないかと思うほどに、外の世界からくっきりと切り離す。
扉を閉めた瞬間に生まれる、無音の空間。
上京して半年が経った今でも、私がこの空間に慣れることはなかった。
手を洗うよりもカバンを置くよりも先に、まずはテレビのスイッチを入れるのが、私の習慣だ。
見もしない海外ドラマの映像や役者の声が、私を安心させてくれる。この世界にたった一人残されたんじゃないか、と錯覚しそうな私を、不安の海から引き揚げてくれる。
実際は、孤独であることには変わりがないのに。
◇
――とある金曜日。
台風が首都圏を直撃するという天気予報のせいで、いつもとは違う早い時間に会社を出て帰路についた。
雨に濡れた傘を持って満員電車に乗り込むと、周囲の上客に傘が当たりやしないかと気を遣い、どっぷりと疲れる。
やっとのことでたどり着いた自宅の最寄駅の改札を出たところで、私は力尽きて大きくため息をついた。
(このまま、あの無音の監獄に帰りたくない……)
雨のせいでいつもより疲れたのに、雨音すら聴こえないあの孤独な空間に帰るのは嫌だ。
そんなちぐはぐな感情を頂きながら駅前の信号を渡ると、目の前のビルの地下に続く階段に、木でできた小さな看板を見つけた。
「PIANO BAR ALONEだって」
雨音にかき消されるのをいいことに、わざと声に出して看板の文字を読んだ。
すぐ側を忙しなく行き来する人の波に押されるように、私はその地下に続く階段を降りて行った。
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