序章:This is a Simulation

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序章:This is a Simulation

青天の霹靂。 俺が知ってる語彙でその様を表現するなら、それしか思いつかなかった。 妹が、俺の愛する妹が、逆さまになって宙に浮いている。 清らかな水球が妹を包み込んでいる。美しい髪は緩やかに靡いている。その眼は開いていない。 ──嗚呼、なぜだ。なぜ妹なんだ。なぜ妹が選ばれた。 魂の絶叫が喉を震わす。慟哭は、無味な白い壁に霧散した。 その不幸な知らせは唐突にやってきた。 自宅を訪ねてきた黒いスーツの大柄な男。 「良い知らせと悪い知らせ、どちらが良い?」 俺が悪い方を選ぶと車に乗せられ、山奥の研究所らしき場所に連れて来られた。 何重にも及ぶセキュリティゲートを経てたどり着いたのはこの惨状だ。 彼らは何を隠していた? ──妹だ 彼らは何をしていた? ──妹を使っていた 彼らは何を得た? ──眼前に浮かぶ、妹だ── 嗚呼、畜生。 何もできなかった自分を恨む。 そして彼らを恨む。 妹は数日前から行方不明だった。 今日も朝早くから探しに行こうとしていたところだった。 ……男は良い知らせを持っている。 傍にたたずむ男に聞く。 「これが悪い知らせか?」 男は一瞥もせず言い放った。 「そうだ」 「──では良い知らせは何だ」 「君が選ばれたことだ。ナンバー・テン──マルクト」 意味が分からない。この状況の何もかもを理解できていないと悟った俺は脳を回す。 地を、空を、海を、この世を今すぐ破壊したい。猛烈な衝動に駆られながら、言葉を振り絞る。まだチャンスはある。そう、自分に言い聞かせるための希望を求めた。 「すべて話せ」
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