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第一章:Perpetual Break
研究所を抜けるとそこは山奥だった。
──ここが山奥だったという感覚が薄いことに気付く。
ディレファトに連れられている時の記憶が怪しい。
それほどまでに妹の行方不明に動揺していたのか、今までの急展開にすべての印象を持っていかれたのか、理由は不明だ。
それでも、一歩ごとに森の中を進んで行くと自然への感覚が戻って来る。
──ここなら、問題なさそうだ。気になっていたことを試してみる。自分の身体能力についてだ。
一歩、強く足を踏み出す。地面を堅く踏みしめて、跳び上がる。
途端、景色が変わる。10mはあるだろう、俺は今、空中に居る。
先代所持者の記憶をもとに再現した高跳びだったが大した力で跳んでないのにここまでの身体性能があるとは思わなかった。
これも全て超越者として覚醒した結果なのだろう。
ダモクレスの剣を強く意識しなくてもここまで跳べたことで、神霊兵装そのものの力ではなく、俺の身体そのものが変異しているのだと悟る。
自由落下が始まる。一瞥、辺りを見渡しても完全に山奥だ。この高度では見える範囲に家はない。
このまま地上に降りても味気ない。
大剣を両手で握りしめて、頭上に構える。
地面が近づいてくる。加速度的に早くなっていく落下速度に身を任せて、激突する瞬間、大剣を振り下ろす。
轟音が響き、地面が大きく割れる。果てしない衝撃に森そのものがざわめいている。
──やはり、異常だ。自分が恐ろしい存在であることを強く自覚する。
目の前の惨状を、自分が行ったということを、はっきりと脳に認識させていく。
大きな力を持つ者は、大きな責任を伴う。
本来は長い時間をかけ、段階を経て成長する意識だが、今の俺にはそれがない。少しでも力を使いこなすために、今、成長するんだ。
同時に、他の超越者もこれほどの身体能力を持つのか考える。材料はいつだって先代の記憶からだ。
ダモクレスの剣に意識を委ねる。途端、脳内で霧がかかったように曇るが、以前の回想よりかはクリアだ。
先代が見た記憶をもう一度確認していく。他の超越者が繰り出す攻撃と、その能力は多種多様だ。神霊兵装の能力としては、ダモクレスの剣が一番下なのかもしれない。そう思うほどこの大剣はシンプルな力を持っている。
『超越者を殺す大剣』
単純明快でわかりやすい。他の超越者と違い、能力に応用が利かない分、戦闘行動そのものに思考を回せるはずだと考える。
どうやら、俺の認識は間違っていないようだ。
ラプラスの悪魔との戦いで先代のナンバー・テンが一番動き回っているように思える。現時点での身体能力は、俺が一番高いと判断する。
だが、あくまで単純な身体能力の強化においてだ。
能力を応用しての移動速度などはこちらを上回る超越者が居る。
無敵でもないし、最強でもない。むしろ劣勢だ。
今の立ち位置を改めて認識すると乾いた笑いが出そうになるが、これが現実だ。受け入れるしかない。
自然も受け入れた。森のざわめきが無くなっている。
物理法則を超越する存在に荒らされてもなお、そこに鎮座している。
日本人の多くは、先祖代々から自然災害を受け入れる考え方を持つ。
自然もまた同様なのだ。
人間からの破壊行為を受け入れるしかないのだ。
そしてこれは、一般大衆からしてみれば超越者は災害でしかないという事実を示す。
緑の楽園を吹き飛ばし、醜い地肌を晒した俺はただ、それを自覚するしかなかった。
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