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自分の破壊力についてわかったところで、今度は機動力について試してみる。
先代も行っていた、空中歩法の再現だ。
ラプラスの悪魔の首を切った際の、脚の踏ん張り。あれは明らかに空中を踏みしめていた。
超越者同士の戦いではあれができなければ話にならないだろう。
再び空に舞い上がり、動作を再現してみる。
だが、上手くいかない。落下しながら何度も足を踏み出すが、空を切るばかりだ。
そのまま地面に降り立つ。
大地への斬撃は一回で上手く力の伝達ができたのに、空中歩法はできる気配が全くない。
やはり今度も記憶を参考にするが、先代は無意識レベルまでに技術を会得してるようで特にコツというものは感じられない。
如何に先代の運動センスが高かったのかを思い知らされる。いや、どちらかと言えば能力への適応センスだろうか。有り余る力を持ってしても細かな所で制御できなくてはただ暴走するに等しい。
記憶から得られる感覚が他にないか、確認していく。
何度も思い返すうちに、あることに気付いた。
先代含め、超越者全員は気迫が違う。
その最たるはラプラスの悪魔だ。水球の封印の内側で蠢いていた、極小までに圧縮された台風を思わせるオーラの激流は、全てを破壊するほどの迫力だった。
明確に格下ながら類似している迫力を、他の超越者も身にまとっている。
自分のオーラそのものを、周囲に発揮しているということだろうか。
まるで感覚が掴めない。気迫とはオーラとは何だろうか。
山の中を歩きながら思索に耽る。
だが空中歩法と同様で一向に手がかりがつかめない。
気晴らしに辺りを見渡す。
思えば、ここまで深い自然の中に行ったことはなかった。
一つ、大きく深呼吸をする。大気に含まれる神聖な気から思考をクリアにしていく感覚で二度、三度と繰り返す。
頭から神経、そして身体全体へと英気が染み渡っていく。
超越者は呼吸機能も向上してるのかと思うほどに、清新な気持ちになる。
ふと、右手に握るダモクレスの剣が熱いことに気付く。
神霊兵装が持つ、高エネルギーの表れだ。持ち主の覇気とリンクしているようだ。ダモクレスの剣を手に取ってすぐは激しく動揺していたこともあり、大剣自身のパフォーマンスも落ちていた。
大剣を掲げて顔に近づけてみる。大剣から感じる波動は、まさしく神霊が持つ神器に等しい力だ。
火傷しそうなほどの熱量を浴びながら、ふと考え至る。
この熱こそが、オーラなのだ。
ならば、この熱を自分の身体に移せればオーラを利用した空中歩法が可能になるかもしれない。
意識を集中する。
右手に感じる熱を、腕全体に馴染ませる。
重度の筋肉痛のように、燃え上がる疼痛を感じる。
大剣そのものも、鉄塊の如く重たく感じる。持ち続けるのがやっとだ。
それでも、集中を続けるしかない。ただの精密操作ではなく、荒れ狂う激流を支配する。
腕から腹へ、腹から丹田へ。
身体中を駆け回る高熱に気が狂いそうになる。
途切れそうになる意識を必死に保ちながら、足元に熱を溜める。
激情に身を焼かれる負の感情を糧に、宙に駆け出す。
大地を砕かんとする激震の一歩は、真に大地を割り、身体を空に押し上げた。
強烈な重力加速度が身体を破壊しようと襲うも、身に纏うオーラで振り払う。
自分自身が打ち上げられたロケットになった錯覚。だが、終わりの時はやって来る。
最初の跳躍より遥か上空に到達する。遠くに自宅がある町が見えた。
これで一歩。
更なる飛躍を目指し、もう一歩。空を強く踏みしめる。
オーラを纏った右足は空を堅く捉え、一歩目と同様に跳び上がる。
出来た。
いつの間にか全身の痛みも無くなり、むしろ以前より気分が向上している。
マラソンランナーが体験するランナーズハイに近い感覚だ。
これならいける。
さらに三歩目、四歩目と空を駆けて行く。
角度を変えて、直上から斜めへ。
そして横方向に歩き出す。
今やもう、俺は空を駆けている。
足を止めたらこの状態が終わってしまうか?
そんな不安は、欠片も抱かない。
空を強く踏みしめて、立ち止まる。
足元とダモクレスの剣から強いオーラが湧きたっている。
これが記憶で見た超越者たちと同じ状態だろう。
眼下に見下ろすは自分の町。
俺はもう昔の俺ではなくなってしまった。
過去との決別の時だ。
振り返ることは、もうない。
自分のオーラが自覚できるようになり、ダモクレスの剣が示す他の超越者のオーラもはっきりとわかるようになった。
朧げな感覚から確かな実感として認識できた目当ての超越者の元へ、空を駆けて行った。
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