第一章:Perpetual Break

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大剣に導かれてやって来たそこは遊園地だった。 遊園地と言っても人の気配はない。 俺の記憶では去年、廃園になったはずだ。 だが、今、眼前に見えるそれは酷く活気的である。 空中から俯瞰的に遊園地の構造を確認してから、地上に降りる。 入り口に降り立った俺は今一度、オーラを確認する。 ──どうやらこの遊園地そのものが異常な熱量を放っているようだ。 入園ゲートの向こうに見える様子はまさにカオスである。 硬貨を入れて動く四つ足のパンダが暴走し、メリーゴーラウンドは煌びやかに輝きながら回る。絶叫マシーンは激しく垂直に動き、鋼材の軋みの音が悲鳴に聞こえる。そして、それらすべてのアトラクションは無人だ。 中でも自己主張が強いのは、この遊園地の目玉でもあった大観覧車だ。 通常の数倍速い速度で回転しており、今にも壊れそうな迫力に圧倒される。 この状況下においても遊園地の主役であり、当然感じ取れるオーラも最高だ。 大観覧車が放つオーラに混じって、異質なオーラもある。 神霊兵装が放つ独特の雰囲気だ。 目指していたものは、確かにあの大観覧車に居る。 確信した俺は、阿鼻叫喚のアトラクション・パレードを抜けて、大観覧車に近づく。 傍まで来て回転する円輪を見上げると、より恐ろしく感じる速度だ。 仮にこの車輪が町中に解き放たれた場合、何百人もの人が轢殺される威力だろう。 そのエネルギーを手玉に取るように、大観覧車の頂上で跳ねる人影を見る。 ──ここからでは遠い。 大地を堅く踏みしめ、神の頂きに跳び上がる。 刺激しないよう、ゆっくりと上がり、三歩目で頂上の高さにたどり着く。 そこには、高速回転するゴンドラに飛び乗って遊ぶ少女が居た。 燃えるような長い赤い髪を持ち、服装はよくある女の子の服装。 手には何も持っていない。衣服にも何かしらのアイテムは着けていないようだ。 ディレファトが見せた、五番目の超越者と同一人物だと判断する。 こちらの存在にはとうに気づいているはずなのに、こちらを向いてこない。 回るゴンドラに集中しているようだが、重厚な緊張感がある。 遊んでいて余裕がないのではない。むしろ逆だ。 俺に警戒している。 だが、少女からは行動を始めない。あくまで俺に事態を進めさせる気のようだ。 こちらも躊躇する理由はない。 素直に、口を開く。 「君がナンバー・ファイブ、永久機関を持つ超越者か?」 「そうだよ」 明快に返される答え。はっきりと聞こえる声質からは少女の強い意志を感じる。 こちらを警戒しているのもあって、会話からは情報が得られないだろう。だが、大体の性格は知ることができるはずだ。 会話の続行を試みる。 「君が戦う理由はなんだ?」 「お姉ちゃんのため」 「お姉ちゃんがどうかしたのか」 「……ラプラスの悪魔に殺されたの」 ──確かに、先代の記憶では少女と似た雰囲気の、少し年上の少女が戦っていた。残念ながら、それぞれの先代超越者が明確に倒れた様子は記憶にない。戦闘の末期であやふやなのか、他者を気にかける余裕もなかったか。 ……どういう経緯で二代目超越者が選定されたのかが気になる。 血縁だろうか? 初代である先代たちも同様に気になる。 だが、思考の沼で遊ぶことはできない。眼前に居るのは敵なのだ。 俺が言葉に詰まる中で、少女が口を開く。 「あなたはどうして戦っているの?」 俺が戦う理由。決まっている、それは── 「ラプラスの悪魔は、俺の妹なんだ」 「ふーん、そうなんだ」 「ああ」 「……」 「……」 途切れる会話。 逡巡する様子を見せた少女は、口を開く。 「じゃあ、私を止めに来たの? 私はラプラスの悪魔(あなたの妹)を殺しに行くよ?」 驚愕の答え。 だが、予想できなかったわけではない。 俺も同様、超越者たちは強烈な負の経験をもとに、強い目的意識を持っているのだと直感で悟る。 相反する、俺と少女の戦う理由。 だが、 「行く前に、真実を知りたくはないか。実験には不可解な点が多すぎる。戦うのはそのあとでも良いだろう」 「──興味ない、私はお姉ちゃんを殺したラプラスの悪魔を殺したいだけなの」 「……」 「復讐するは我にあり、でしょ?」 元の原義を知らぬわけではないだろう。 敢えてそういう解釈で挑むほど、己の矛盾に気付いているのだ。 「……君の代わりに、俺がラプラスの悪魔を倒すから──」 「『倒す』じゃだめだよ。『殺す』んだよ。命は命で償わないと」 「だが、」 「あー、もううっさいなあ。キレイ(自分の)事ばっかり、うんざりする」 「妹に悪魔が憑依したと思ってる? お姉ちゃんを殺したのは悪魔の意思であって妹じゃないの? それを今証明できる? 時間はないんだよ??」 時間がない。そのワードに気を取られる。 「あの封印は、あと二日で弾け飛ぶ。それまでがタイムリミットだけど、ただの一般人だったあなたがすべての真実を調べられるの? 他の超越者との戦いの中でさあ!?」 少女の気迫が増していく。 観覧車の回転もより、早くなる。 眼下で今も暴れ狂うアトラクションは、より過激さを増していく。 遊園地の熱量は、暴発寸前だ。 それを封ずるが如く、鎮静の一手を放つ。 冷静に勤め、刺激しないよう淡々と呟く。 「封印について、なぜ断言できるんだ?」 「お姉ちゃんが最期に、封印に永久機関を付与したから」 ──そういうことだったのか。 少女を始めて見たときの既視感。 妹の封印から感じる熱量と、この少女から感じる熱量の性質が同じということを今、理解した。 だからこそ、一番最初にこの少女に会いに来たのかもしれない。 どの超越者に会いに行くかは直感で決めた。 その直観の根拠らしきものがようやくわかった。 腑に落ちる俺と、さらに熱量を上げていく少女。 「──ねえ、お姉ちゃんは生き返る? ……生命の実はまだ残っているのかな?」 脳内に電流が走った。 この少女は、生命の実を欲している。 ラプラスの悪魔を殺し、自分が巫女になり、改めて実験を再開して生命の実を獲得する。 亡くなった姉を蘇生させるつもりなのだ。 死者に生命の実の効果があるかは不明だ。 しかし、それだけが、最後に残ったたった一つの願いなのだ。 少女の願い(恨み)は、果てしなく重い。 「これ以上は、もう、いいよね」 少女がこちらを見る。 その瞳には、黒い炎が揺らめいていた。 「ああ」 俺はダモクレスの剣を構える。 問答は終わった。 後は戦いだ。 少女が炎の剣を生成する。 極限まで凝縮されたその熱量の光に目を奪われた直後、少女がゴンドラを蹴って俺に向かって突撃してきた。
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