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「ッ!」
対応が一手遅れる。
凄まじい勢いで発射された少女の体躯。
なんとかダモクレスの剣で炎の剣の刃先を受け止めるが、そのまま押し込まれる。
意識がそらされ、空中を踏みしめることができない。
僅かに身を引いた少女が炎の剣を振りぬく。
大剣ごと身体が弾かれ、大きく吹っ飛ばされた。
全身が宙を舞う。いや、激しく回転している。
錐もみ回転で突っ込んだ先には何かの構造物。
まともに直撃するわけにはいかない。なんとか体勢を立て直そうとする。
森で実践した超越者としての身体の使い方。その応用だ。
自身のオーラを手繰り寄せ、落下速度を抑える。
全身に衝撃が走る。
肺腑から呻くように詰まった息がこぼれた。
大仰な破壊規模にしては身体へのダメージが少ない。
なんとか、衝突直前で大剣を構造物に振り下ろして威力を相殺することができたようだ。
つくづく、超越者としての身体能力に驚嘆する。
だが、驚いているばかりでは後手に回るだけだ。
息も絶え絶えながらも、辺りを見渡す。
「──!」
言葉も出ない。俺は後手のまま流されているようだ。
俺が居る場所は、ジェットコースターのレール部分。
大きく曲がったレールに膝突く俺に向かってくるのは、少女ではない。
自分がやって来て当然の顔をしながら突進してくるのは、コースターだ。
異常なオーラを纏い、車輪からは炎が噴き出ている。
恐らく、永久機関を付与されているのだろう。
久方ぶりの来園客に興奮でもしたのか、少女が来てから休むことなく走り続けた証拠は、足元の焼け付いたレール部分が物語っている。
レールを破壊したことを咎めるが如く向かってくる様に、立ちすくみそうになる。
アレの突進をまともに喰らえば、さすがの超越者でもただでは済まない。
当然、避けるしかない。避けるほどの体力はこの数瞬で回復できた。
だが、それを予測するのも、また当然。
ふと空を見上げると、少女が炎の弓に炎の矢をつがえてこちらを狙っている。
新しく生成したのであろう弓矢には、数軒の家を跡形もなく吹き飛ばすほどの熱量が込められていると感じるほどだ。
避けてもダメ、避けなくてもダメ。
たった二手で追い詰められた。
少女の戦闘の上手さに感服する。
いや、俺が下手というのもあるのだろう。
この遊園地はすでに少女の支配下にあった。
飛んで火にいる夏の虫のように、俺は自ら死地に入ってしまった。
諦めるか? 己の無謀さを嘆くか?
──その程度の弱音は、すでに乗り越えた。
大剣を固く握りしめる。
この大剣こそ、格上殺しにして、超越者殺しの神霊兵装。
いつだって、これからだってこの大剣の力を使って戦うしかないのだ。
コースターが目の前に迫る。
少女が矢を放つ。
前方と上方より襲い掛かる二つの死。
走馬灯が脳内に流れる。
死を受け入れた先の現実逃避ではない。
生にしがみつくための徹底抗戦だ。
この状況を打破するための、挽回の一手。
溢れる記憶の奔流の中に手を伸ばし、希望を掴み取る。
見つけた。
俺の想像と同様の能力が、やはりこの大剣には備わっていた。
固く握りしめられた大剣を、さらに深く握りしめる。
全身に張り巡らされたオーラを大剣の一点に集中させる。
柄を握る手に、万力の力を込めて能力を発動させた。
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