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俺は現在の象徴を背にして、過去の象徴を見つめた。
男は宙を見たままだ。いや、何も見ていない。
この男が生身の生物なのか。下手な疑問も浮かんでくる。
まるでロボットのようだ。もしくはゲームのCPUキャラクターを再現すればこうなるだろう。話しかけるまでは、何も話さない。
俺は話しかけた。男は話し出した。
「この結果はある実験が失敗したが故の事態だ」
「実験の概要はセフィロトパラメータを用いての【生命の実】の獲得だ。不老不死の実現を求めた研究の実証実験だった」
「実験には10個の触媒と10人の贄が選ばれた。そして、果実を獲得するための巫女が選ばれた。それがお前の妹だ」
要するに、妹は不老不死を求める実験の犠牲になったということだ。
「実験は順調に進んだ。だが、最後の果実の選択で彼女は【知恵の実】を選んだ。彼方の狭間から帰って来るには【生命の実】が持つエネルギーが必要だ。彼女はそれを獲得できなかった。その結果、全てが変質し、破綻した」
「ここからは推測だが、【知恵の実】を選んだ彼女は破綻した10のセフィロトパラメータと自分に対して、自らの知識に基づく修正を行った」
「破綻したモノには破綻したモノが相応しい。選ばれた10と1の仮説・概念・伝説はそれぞれに適合した」
「触媒は論理を讃える神霊兵装に変貌し、贄はそれを振るう超越者に変貌した」
「君の妹も同様だ。そして敵になった。恐ろしく強大な存在になった」
「10人の超越者は戦い、敗北した。だが、最後の反撃として封印処理を試み、成功した」
「それが、これだ」
男は手で差し向ける。現実に戻れと。
俺は妹の方を見る。
──現実はいつだって非情だ。
妹だけが、俺の全てだった。
全てを取り戻すには、受け入れて進むしかない。
希望ある未来だと信じて、前に進む。
妹を救えるのは俺だけなのだ。
俺自身が未来の象徴になるのだ。
未来は、進んだ先にしかないのだから。
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