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君の手を引いて駆け出す。目に鮮やかな空色が飛び込んでくる。ここから逃げるんだ。ここから逃げて、どこか遠いところで二人で暮らすんだ。誰も僕らの夢を笑わないようなどこかへ、逃げるんだ。
「19番と23番が逃げたぞ!」
後ろから怒号が聞こえる。背中に小石があたる。時々大きい石も混じる。
『大丈夫、一緒に逃げよう』
声をかけようとして君が隣にいないことに気がつく。どうして、どうして? 混乱していると後ろから小さな声が聞こえる。
『ごめんなさい。怖くなったの。……許してね』
まさか。振り向くと君は敵の腕に抱かれていた。怯えたように君は睫毛を震わせる。
『なんでだよ! 一緒に逃げようって約束したじゃないか!』
敵の怒声に僕の叫び声が加わる。
「今だ、捕まえろ!」
僕が立ち止まった隙を見て敵が襲いかかる。けれど僕はもうそれどころじゃない。
『裏切るのかよ! みんな裏切って、君だけが僕のことを信じてくれると思ったのに! 君も裏切るのかよ!』
そうだ、たしかに僕の計画は穴だらけだったかもしれない。でも消えた仲間のことを考えてほしい。
『あいつらの犠牲を無駄にするのかよ!』
リリーは小さい体をさらに小さくする。
『本当にごめんなさい。ごめんなさい。でも外に行かなくても私達は快適じゃない。いくらいなくなった仲間のことを考えるって言っても……』
『だからって!!』
僕が叫ぶと同時に敵が僕の体を拘束する。体全体が痛い。もういっそのこと殺してくれればいいのに、こいつらは絶対に殺してくれない。
『離せよ!』
体を掴む手を殴りつけるけれど、全く緩むことはない。僕はなんて無力なんだ。結局逃げることはできないのか。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』
もういいや。そんなに謝られてもなにも変わらないし、チャンスは二度と巡ってこない。
『でも私達にはやっぱり無理だよ……。力の差がありすぎる』
だからもういいって。
『諦めたらだめだよ』
『何で君がそれを言うんだよ! 君が僕の努力を無駄にしたんだろ!』
体が震えた。もうきっとここから逃げることはかなわない。誰かを信じてはいけなかった。自分だけを信じていればよかった。
『……もういいよ』
呟くと僕は敵の手に噛み付いた。肉を鋭く切り裂いていく。一瞬手が緩んだすきを突いて僕はその手を振り払った。あいつのことなんか気にするな。逃げてやる。
「逃げ切れると思ったのか、お前。お前のせいで建物中が大混乱だ。お前はお前らしく――実験用ラットらしく檻の中にいてくれ」
まあ、無理だよな。見飽きた2つの大きな光るレンズが目の前に迫ってくる。ここで終わりか。これからもずっと、死ぬまで檻の中か。いつか仲間のように太い針に刺されて死んでゆくのか。
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