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5.涙
しゃらん、と鈴の音が響き、一人火のそばに座っていた麻人はジーンズのポケットに入れていた携帯端末を取り出した。
『どうなった?』
チャットメッセージの画面上、疑問符と共にうさぎが首を傾げているイラストが躍っている。
『予定通り』
短いメッセージを打つと、少し間があって再び着信音が響いた。
『良かった』
短い返事の中に安堵する気持ちと後ろめたさが透かし見える。麻人は少し迷ってからメッセージを送信した。
『これで死ぬまで千鶴と一緒にいられる』
しばらくして再び受信したメッセージは、大きなハートを抱えたうさぎのイラストと『愛してる』という短い言葉だった。
『俺も愛しているよ』
ぱちん、と再び虫が火中に飛び込む音が響く。燃え盛る炎を瞳に映し、麻人はメッセージを送り終えた端末を無造作にポケットへ戻した。
「飛んで火に入る夏の虫、か」
呟き、麻人はゆるゆると手を上げると炎から顔をかばうように目の前に手をかざし、俯いた。
「あっけなさすぎるよ、博樹」
夜がゆっくりと空気を濃く黒く染めていく。赤々と燃える炎に照らされながら、麻人は肩を震わせ、笑い出した。
押さえた掌の下からさらり、と一筋涙が流れ落ちたが、それに気づかないふりをしたまま、麻人はただ、笑い続けた。
泣きながら、笑い続けた。
…………了…………
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