本質的な夫婦の破局に気づかぬのは愚か者だけ。

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二人が再び現れたのは翌朝のこと。 渚がちょうど、トイレに行っている時だった。 「あれ?結莉じゃない?どうしたの?」 結莉は愛莉に気づき白々しくそう言うと、繋いだ夫の手を離して愛莉の手を掴み強く引っぱる。 「私、ちょっとトイレ。え?結莉も?一緒に行きましょう。」 キョトン顔の夫をその場に残して、連れて来られたトイレの鏡には違う表情の同じ顔の二人が映る。 「あんた、私にずっと愚痴ってたよね? 私が貰ってあげる。 元々は私が愛莉。あんたが結莉。 もう、元に戻りましょう。」 そう言って、トイレを出る結莉を追いかけて愛莉は平手打ちする。 驚いた後、怒りに震えた結莉が言う。 「私は全部バラしても良いのよ? それよりも、穏やかに変わりましょう? 見つけたんでしょ? 婚活クルーズ船で新しいお相手を。」 次の瞬間青ざめたのは、愛莉では無く結莉の方だった。 「あんたがなんでここにいるの?」 青ざめた顔で結莉は渚を見つめている。 「僕が、愛莉…いや、結莉の新しいお相手だよ。 そして、君が結莉であると偽り結婚した元夫。 前にも一度君は無理矢理、入れ替わったんだろ? 恐らくそれは、僕と君が偶然再会した日。君の結婚前夜。 そして今日また無理矢理元に戻るつもりでいる。」 そして結莉に戻った愛莉に渚はキスをした。 「全部バラされて困るのは君の方。 僕には彼女にあり、君に無いモノを沢山知っている。 持っている彼女がそれを隠せても。持っていない君にはそれを作れない。いや、作れたとしても綻びが出るのは時間の問題さ。 僕達はこれから、君に奪われた時間を取り戻す。 悪いことを考えるなよ。僕は二度と騙されないし、それは君を破滅に導く。」 目の前にいる、深い闇を孕んだ怖い顔の男に結莉に戻った愛莉は不思議と恐怖心を抱かなかった。 弱い自分を暗闇から救い上げた者の正体が例え悪しき者だったとしても、彼を愛し続ける。
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