湛えた深くで息をして

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 秦野もその一人だった。それなのに今、頬杖をついた白いワイシャツは真上からの光を反射して由乃を拒絶する。気の合わない人もいることは重々承知で、それでも秦野の態度は由乃の喉元につかえていた。  去年から蛍光灯が切れた順にLEDライトに変えていると先輩が言っていた。つい先日、真上の蛍光灯が点滅していたことを思い出して、明るすぎるのも考えものだと、由乃はクラスメイトをぼんやり眺めた。  梅雨入りしたというニュースは、由乃の耳に届く前にかき消されてしまったのかもしれない。しとやかになった細い線は、ついさっきまで窓ガラスを激しく叩いて古典の授業に割り込んでいた。これでまだ梅雨ではないのかと思うとげんなりする。 (――あれ)  左半分、奪われていた聴覚を取り戻してほっとした由乃の視界に、折り曲げられた腕が入った。秦野がまた頬杖をついている。誰がどんな態度で授業を受けているか、普段気にしているわけではないが、由乃はそういえばと思った。  秦野は姿勢がいい。授業中は視界に大きく映るのに、他の男子と並んで立っていても頭はとび抜けない。由乃は初めそれが不思議で、理科室で横並びになった時に姿勢がいいのだと気づいた。しかしここ最近はよくあの格好をしている気がする。するすると記憶が引き出されて、由乃は知らずと秦野を見つめた。
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