湛えた深くで息をして

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 肩を丸めるようにして、左手の先は髪の中に差し入れられている。うつむき加減になった頭は傾いていない。頬杖というよりはむしろ (耳をふさいでる?)  由乃がはたと気づいた瞬間、秦野の椅子が音を立てて下がった。教室中の意識がばっと集まり由乃は思わず息を詰める。 「すみません、保健室行っていいですか」 「おおどうした、大丈夫か」 「ちょっと気分が悪くて」 「そうか」  当の秦野は一切動じることなく淡々と告げる。顔を覗き込むようにした先生は納得したらしく頷いた。 「じゃあ一応、保健委員は……」 (あ)  上げた顔の先で先生と目が合う。数人の視線が由乃へ向いて、それで二分の一が確定した。 「夏目さん?」 「はい」 「お願いできる?」 「――分かりました」  ためらった一拍は気づかれませんように。由乃は願いながら、視界の端でもう一人の保健委員が立てた片手に軽く首を振った。 (これは、どうすれば)  振り返った秦野と視線は合わず、クラスメイトのいらないそれらに動きを縛られる。由乃は迷って、とりあえず先導する方を選んだ。横並びに支えるだけの幅はなく、肩に手を添えるのも確実に違う。 「じゃあ次は――」  何事もなかったように授業を再開した先生に心の中で感謝しながら、由乃は秦野と廊下に出た。
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