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「せんせー黒板」
「先生は黒板じゃありませんー」
ふざけた先生が、手を上げた松崎からより板面を隠すように移動する。
「せんせえー」
数か所でくすくす笑いがあがって教室が息をつく。小学生かと心の中で突っ込んだ由乃の口元もつられて少し緩んだ。入学したての頃、高校生になってもああいう人はいるのだなと思っていたが今は羨ましくもある。この新しい環境も、松崎だったらすぐに慣れたのだろう。
由乃は教室を見渡した。松崎だけではない。みんなどうして、平気でいるのだろう。そう見えるだけなのだろうか。だいたい二か月か三か月、周囲が緊張の皮を全て剥がした頃になって由乃はいつもはっとする。落ち着かなさをまだ抱えていることに気づいて、いつの間にか自分の周りにくるりと線が引かれてしまったような、色が違って自分だけが馴染めていないような感覚に陥る。
気候のせいだったりしないだろうか。環境が変わる度に考えるこれも、今年こそは的を射ているかもしれない。光を遮る分厚い雲が黒く染まっていくのを横目に由乃は思った。
いつになく湿度の高い毎日が続き、無風の昼間は息苦しささえ覚える。窓際の席でこうなのだから中央の生徒はいかほどだろう。セーラー服の裾をつまんでは離して、由乃は何とか数学の授業に頭を留めている状態だった。
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