プロローグ

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プロローグ

「卒業式かぁー 何だか懐かしいね」  助手席に座っている香織が呟いた。  二車線道路の路肩には、昨日の強風で散ってしまったさくらの花びらが、ピンク色の絨毯を作り出している。そこを車が通り過ぎると、風で花びらが舞い上がり、さくら吹雪となってまた路肩に集まってくる。 「さくらの花、ギリギリ残ったって感じだね」  香織は、校門の前で戯れている高校生に目を細めた。 「ねぇ、一平の卒業式は、どんな感じだった?」  妻の香織は、自分の高校時代の思い出を語り尽くした後、突然、僕に問いかけてきた。 「うーん、もう10年も前の事だから、良く憶えてないなぁ……」  僕は曖昧な返事をしながら、一人の女性の事を思い出していた。  淡く切ない思い出。風が吹くと空に舞い上がって、どこかへ消えてしまいそうなほど儚い記憶。
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