第一話 台風の夜に ――「僕」のおはなし――(前編)

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第一話 台風の夜に ――「僕」のおはなし――(前編)

     ゴウゴウと激しい風の音がする。  数日前から心配していた通り、この学校に台風が直撃したのだ。  学校といっても、ここは、しょせん田舎の小さな分校に過ぎない。時代遅れの木造校舎が、はたして、この台風を乗り切れるのだろうか……。  ともすれば弱気になる僕に、隣から励ましの声が飛んできた。 「頑張れよ、キョージ。ホッちゃんを(じか)に守ってやれるのは、お前だけなんだぞ!」 「わかってるよ、キョーイチ兄さん!」  自分に気合いを入れる意味で、僕は、必要以上に力強く返事する。確かに、この並び順――キョーイチ兄さん、僕、ホッちゃんという並び方――では、僕が彼女を守るしかない!  毎日毎日、子供を包み込むような包容力で、みんなから慕われているキョーイチ兄さん。対照的に、僕のところに来る子供なんて、一人もいなかった。たまに来ることがあっても、すぐに「あ、間違えた」という顔をして、キョーイチ兄さんの方へ行ってしまう。  そんな感じで、役立たずの僕。でも、だからこそ、こんな時くらいは……!  ホッちゃんは、僕にとっては妹みたいな存在だ。  小さな体で、いつも頑張っている、健気なホッちゃん。包帯や薬などを管理するのは彼女の担当なので、怪我をしたり気分が悪くなったりした子供は、彼女のところへ行き、彼女のお世話になる。  まるで『白衣の天使』じゃないか! その上、僕やキョーイチ兄さんとは違って色白だから、本当に真っ白なイメージのホッちゃんなのだ。  そんな彼女が、今はガタガタ震えている。いや、僕やキョーイチ兄さんだって震えているが、それとは比べものにならない様子だった。  僕たち三人は、一列に並んだ状態で手を繋いでいるわけだが、一番端にいる彼女は、精神的にも物理的にも心細いのかもしれない。 「頑張れ、ホッちゃん! 今晩一晩の……。いや、もう少しの辛抱だ!」  僕はキョーイチ兄さんの真似をして、彼女に激励の言葉を投げかけた。  予報では、この台風は、明日の朝までには抜けて行くはず。そう思い返していた僕に対して、 「……うん、大丈夫」  (はかな)い声が返ってきた。  なんと弱々しい! こんなホッちゃんを見るのは初めてだ!  僕の中で「なんとしてもホッちゃんを守らなければ!」という気持ちが、いっそう強くなった。    
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