掘り起こしてはいけない

8/8
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 想い出は、決して掘り起こしてはいけない。  私は生きている。  運よく、先生の魔の手から逃れられた。  スコップを貸してくれたおじさんが、なかなか戻ってこない私を心配し、校舎裏まで来てくれたから。  先生は──。  3人の女子生徒を殺した。  自分の生徒であり、恋人でもあるのに、卒業するからと言う理由だけで手にかけていた。    あの頃、私は先生の何を見て、先生も私の何を見ていたのだろうか。  お互いに、違う熱に浮かされながら成り立ってしまった恋だった。    もし翔太がいなかったら、私は──。 「朱里、少し散歩に行かないか?風が気持ちいいぞ〜」 「うん!」  頭の傷は癒えても、心の傷はなかなか癒えなかった。  悪夢にうなされる夜も、食事が出来ないくらい辛い時も、翔太は傍で支えてくれた。  あたたかいお陽さまの下へ、手を繋ぎ連れ出してくれる。  「ありがとう、あなた」  照れてはにかむ顔は、昔と変わらない。  殺されなくて良かった。  生きていて良かった。  だって、生きているからこそ──あなたにドキドキできるのだから。                  完
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!