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無事に卒業式を終えた私は、校舎裏、秘密の場所に足を運ぶ。
誰も手入れをしていない朽ちた花壇の土は、まだ柔らかさを保っていた。
2週間前、二人で埋めたタイムカプセル。
私と先生の愛の証は、冷たい土の中でもきっとぬくもりを放っているはずだ。
この高校を卒業して、離ればなれになってしまう二人の、永遠を誓うタイムカプセル。
お互いの気持ちを書き記した便箋と、一緒に撮ったプリクラと婚姻届まで詰め込んだ。
──心はここに。永遠に一緒だよ?
5年後、10年後──それ以上時が経っても、このタイムカプセルを掘り起こす時が、私達のゴールだ。
「神様、どうか二人でタイムカプセルを開けられますように。今は、まだ無理でも……」
10日後、私は東京の大学に通うためこの街を離れる。
寂しくない訳がない。
先生は、新学期になれば新しいクラスを受け持つのだろう。
私がいないこの学校で。
「朱里?」
少し鼻にかかる甘い声に、胸が高鳴り振り向いた。
「先生……」
そっと抱き寄せられて、おもわず辺りを窺ってしまう。
学校の中では先生と生徒、先生の部屋では恋人同士だったから。
「先生、誰かに見られる……」
「いいさ……もう、卒業するから」
いたずらな春の風が、私の長い髪を掬った。
学校では、こんな大胆な事はしてくれなかったのにと、嬉しさの中に寂しさがジワリと滲む。
「メールするよ」
「約束、忘れないでね?」
微笑んだ先生の顔を、頭に、目に、胸に、身体中に、焼き付けるかのように見つめた。
やがて愛しい人は教師の顔に戻り、ゆっくりと背中を向けた。
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