掘り起こしてはいけない

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 大学を卒業して3年後、私は翔太と結婚した。  幸せな新婚生活に、昔の思い出など入る隙もない。  セピア色になりかけていた先生との思い出が、地元の友人の一言で(いろ)を取り戻す。 「田村先生覚えてる?もうすぐ学校を辞めて実家を継ぐんだって。お見合い結婚したらしいよ!何でだろ?モテ教師だったのに〜」 「辞める……そうなの?」  私と付き合っていた時も、あまり教師という職業に執着していなかったように感じた。  淡々としているような、どこか冷めているような……。 「ご実家って、塾だったよね?」 「良く知ってるね?進学塾で、個別指導専門みたい。母親が話してたの」  時の流れとはこんなものなのか。  お互いが別々の新しい道を歩きだし、愛し合った事は思い出となり、風化していく。 ──あのタイムカプセルは、まだ埋まっているのかな……。  高校生だったからこその、ピュアな一途さが詰まったタイムカプセル。  掘り起こされるのを待っていた幼い愛は、冷たい土の中で、すっかり冷えてしまったのか。 ──明日、こっそり掘り起こしてみようか?  よく今まで見つからなかったものだ。  そんなに深く埋めた記憶が無いのに。 ──若さって怖い。  私はほんの好奇心と、過去の証拠隠滅の為に、明日は懐かしい秘密の場所に赴く事にした。
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