掘り起こしてはいけない

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 ザクッ、ザクッ。  先生の部屋で書いた、それぞれの想いと未来を綴った便箋と、封筒には切手代わりのプリクラを貼った。  婚姻届は、先生が貰ってきてくれたっけ。 ──結構、恥ずかしいもんだな。  照れながら婚姻届の用紙を受け取る先生を想像して、私はもう先生の奥さんになった気分だった。  ひとつ思い出せば、次々と思い出す。  おままごとのような恋だったと、今なら言える。 ザクッ、ザクッ、カンッ。  手応えがあった。  慌ててスコップを捨て、手で土の中を探ると、鈍く光るタイムカプセルがコロンと出てきた。  ドクンと胸が高鳴る。  土を払ったタイムカプセルは、あの時と同じ輝きで私の手に収まった。  加速していく胸の高鳴りを、深呼吸して落ち着かせる。  掘った穴は浅く、よく見付からなかったものだと他人事のように感心する。  3年間、誰にも言えない恋だった。  普通のカップルのように、堂々と手を繋ぎデートするなど出来ない恋。  その分、女子生徒にモテる先生が私だけを愛している、みんなの知らない先生の表情を知っている優越感が私の全て。  チョークを持つ長い指も、甘い声も、冷たい唇も、私だけが知っている私の先生。 「お互いにどこか、見つかってほしい気持ちがあったのかな……」  きつく閉まったままの蓋を、力いっぱい回してみる。    
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