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想い出は、決して掘り起こしてはいけない。
私は生きている。
運よく、先生の魔の手から逃れられた。
スコップを貸してくれたおじさんが、なかなか戻ってこない私を心配し、校舎裏まで来てくれたから。
先生は──。
3人の女子生徒を殺した。
自分の生徒であり、恋人でもあるのに、卒業するからと言う理由だけで手にかけていた。
あの頃、私は先生の何を見て、先生も私の何を見ていたのだろうか。
お互いに、違う熱に浮かされながら成り立ってしまった恋だった。
もし翔太がいなかったら、私は──。
「朱里、少し散歩に行かないか?風が気持ちいいぞ〜」
「うん!」
頭の傷は癒えても、心の傷はなかなか癒えなかった。
悪夢にうなされる夜も、食事が出来ないくらい辛い時も、翔太は傍で支えてくれた。
あたたかいお陽さまの下へ、手を繋ぎ連れ出してくれる。
「ありがとう、あなた」
照れてはにかむ顔は、昔と変わらない。
殺されなくて良かった。
生きていて良かった。
だって、生きているからこそ──あなたにドキドキできるのだから。
完
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